ホットドッグ委員会

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初恋はブルーハワイ

お題「かき氷」

 

 夏といえばかき氷、かき氷といえば夏だ。
 両者の関係性はイコールでつなぐことが出来るほど強固なものである。

 昨今では年がら年中かき氷をメニューに組み込んでいる店もあるが、邪道である。
 邪道ではあるが、メニューにその文字があればつい心を惹かれてしまう。
 そのくらい、かき氷には魅力がある。

 氷の塊からさらさらと削り出す様は芸術であり、その白銀のキャンパスにシロップをたらす。
 シロップがかかった場所からわずかに形がくずれ、白と色とが混じり合う。
 その光景はさながら不可逆の絵画である。


 夏といえばかき氷、かき氷といえば夏であるなら、その関係性に唯一踏みこめるのはブルーハワイだ。
 イチゴやメロン、宇治金時まで様々あるが、彼らは浮気性だ。
 ケーキやらソーダやら、ぜんざい、抹茶に至るまで活躍の場は幅広い。

 そこでブルーハワイである。彼の活躍の場がどこにあろうか。
 私が無知であるからして知らないだけかも知れないが、やはり彼の相手はかき氷しかいないのではなかろうか。

 そもそもにして、名前がブルーハワイである。ハワイでブルーだ。
 カラッとした砂浜にさんさんと輝く太陽、青い海にパツキンちゃんねー。

 ほら、ハワイでブルーだ。
 このネーミングセンスは驚異的である。

 しかしながら時として、あまりにマッチしたネーミングというのはその場所以外での活動の場を失う。

 ブルーハワイにはかき氷しかいなかったが、かき氷にはいくらでも相手がいた。
 これはそういう類の話だ。

 

 

 ある夏のことだ。
 私は父の田舎へと里帰りしていた。
 まだ小学生だった頃で、お盆の時期のことである。

 田舎といっても山の中ではない。
 電車は一時間に二本、住民数は五万前後、高速のインターチェンジもあるどこにでもある街だ。

 当然ながら、その街に私の知り合いはいない。
 暇だった私は街中をほっつき歩いていた。

 父の実家から十分ちょっとの公園がある。
 その隣に、かき氷屋はあった。
 より正確にいえば、普段はたこ焼き屋であり、夏の間はかき氷もやっていた。

 そこの店番を、大学生っぽいちゃんねーがしていたのである。

 かき氷を注文してから出来るまでに、ちゃんねーの方から話してくれた。
 事実として大学生であり、実家のばーちゃんの手伝いをしているとのことだった。

 ちゃんねーの声と、氷を削るがががという音が混じる。
 氷を削り終わるとちゃんねーが尋ねるのだ。

 坊や、何かける? と。

 大人ぶりたかった私はブルーハワイ、と答えた。
 ちゃんねーは大人だね、と言った。

 チャンネーに惚れた瞬間だった。つくづくアホの極みである。

 代金を支払いかき氷を受け取ったあとで、隣の公園に移動しベンチで食べる。

 ブルーハワイなんてうまくもなんともない。
 その頃の私にとって、ブルーハワイはドロップのハッカ味と同義だった。

 炭酸ではなく好き好んでコーヒーを飲む同級生。
 それと同じ行為をしている自分をバカバカしく感じたが、頼んでしまったものはしょうがない。

 それから毎日のようにかき氷屋に通った。
 その頃はまだ安かったのだ。小学生の小遣いでも困らないくらいには。
 話すのは一日のうちでせいぜい二分。かき氷を受け取るまでの時間だ。
 わずかばかりの時間だが、幸せだった。

 田舎から都会へと戻る日の前日。
 その日もかき氷屋に行った。
 毎日来てくれるね、とちゃんねーは笑う。
 今日で最後なんだと俺は答える。
 そっか、残念だね、とちゃんねーは答える。
 俺も残念なんだ、なんて恥ずかしくて言えるわけもない。

 君くらい、頻繁に会いに来てくれたらいいのに、とちゃんねーは言った。
 俺は何も言わなかった。
 彼氏となかなか会えないのだ、とちゃんねーは続ける。
 付き合い始めて一ヶ月だ、とも。

 はい、とかき氷が差し出された。
 当然のようにちゃんねーは言う。

 坊や、何かける? と。

 ブルーハワイ、と俺は答えた。
 好きだね、なんて笑うんだ。
 うまくいくといいね、と俺は答える。
 ありがとう、じゃあね元気でね、ってチャンネーは笑った。

 隣の公園でベンチに座り、かき氷を食べる。
 勢いよくかっこむと頭が痛くなる。
 ブルーハワイを食べる。
 痛くなる。
 食べる。
 痛い。

 誰だこんな味つくったやつ。

 かき氷には、イチゴ味のほうがよく似合うんじゃないか。

 俺はその夏に一つだけ賢くなった。

 

 

 かき氷にはイチゴ味もメロン味もある。
 イチゴにはケーキが、メロンにはソーダがいて、その他にもたくさんの組み合わせがある。

 かたやブルーハワイはどうだ。
 ブルーハワイには、かき氷しかいないんじゃなかろうか。


 ゆえに、ブルーハワイは初恋の味なのだ。